気管支喘息

気管支喘息とは?

遺伝的素因と環境因子が関係して、気道の慢性炎症が起こり気道の過敏性亢進と可逆性の気道狭窄を来す疾患です。
喘息予防・管理ガイドライン2015では、喘息治療の目標として
  • 健康な人と同じ生活を送ることができる
  • 正常に近い肺機能を保つ(不可逆的な気道リモデリングへの進展を防ぐ)
  • 喘息発作・喘息死の予防
  • 治療薬による副作用を避ける
などが上げられています。
喘息の症状として咳・喘鳴・呼吸困難などが典型的ですが、気づきにくい喘息の症状も多く、
小児喘息の既往がない場合、喘息と気づかない患者さんが多いことが問題です。
喘息の非典型的な症状として、動悸・歩行時のふらつき・突然の呼吸のしにくさ・過換気症候群・胸部圧迫感・胸痛、頻脈・不安感など多岐にわたります。

では、どうやってきちんと喘息と診断していくのでしょうか?
当院での診療の実際をご説明いたします。
まず、十分な問診を行うことからは大切です。
以下の質問内容に答えて頂きます。
  • 血縁者に…喘息の方はいるか?咳喘息の方はいるか?
    咳が出やすい、気管が弱い人はいるか?など
  • 喘息の既往
  • 咳・痰・息切れの有無
  • 喫煙歴
  • 飲酒歴
  • ペット飼育の有無
  • 居住環境
  • 職場と職場環境
  • アレルギー体質の有無
  • 花粉症の有無
  • 食物アレルギーの有無
  • アトピー性皮膚炎の有無
  • 最近のストレスの程度
  • 睡眠時間を確保できているか?
  • 天候・気圧と症状の相関の有無
  • 症状が出るようになったきっかけはあるか?
などをお聞きします。
喘鳴がなくとも喘息があることや、咳がでなくても喘息の事があります。

また、喘息の診断だけではなく、他の疾患の可能性や合併がないかを評価することも大切です。
そのためには、より詳細な問診が必要です。
  • 咳の有無 … 出るとすればいつか?
    <具体的に>布団に入り体が温まると・電話でしゃべると・空気がかわると・クーラーにあたると・きついにおいをかぐと…春先や秋など季節の変わり目に多い…
  • 痰の有無 … 色と性状、量、粘稠度の確認
  • 息切れの有無 … 平地を歩いたとき・荷物を持って歩いたとき・階段を上るときなど
  • 症状出現と環境(職場・家・実家にいくと…など)の関連性の有無
気道の過敏性が亢進する肺疾患の場合、喘息の様な咳が出る場合が多くあります。
また、他の疾患の治療歴も重要です。
  • 高血圧で内服をしていないか?
  • 痛み止めを飲んでいないか?
  • 花粉症のコントロールが悪くないか?
  • 胸やけや胃もたれはないか?
  • 精神疾患の治療中ではないか?
など・・・。
詳細な問診を元に、科学的客観的なデータを集めるため、検査にすすみます。
問診の段階で喘息の可能性が低ければ、感冒薬などで少し様子を見ます。

喘息の検査:他の疾患を除外するための検査(胸部X線検査や胸部CT検査)

喘息の診断に寄与する検査:
  • 血液検査(末梢血好酸球数、IgE RIST、IgE RAST)
  • 胸部X線・CT検査
  • 6分間歩行検査
  • 気道抵抗検査
  • 呼気中NO測定
  • 気道過敏性検査
  • 喀痰検査
喘息の確定診断となる検査:吸入改善試験・肺機能検査

があります。
上記の検査の結果をもとに、呼吸器・アレルギー専門医が診断を確定します。
一定期間経過観察を行うことで、診断に至ることが多いですので、
「私は、健診で肺活量は正常だから喘息ではない」などは誤った理解の事もあります。
喘息と診断が確定した場合の治療の目的は
  • 症状を緩和させること
  • 肺機能を維持・改善させること
  • 喘息発作による窒息死を0にすること
よく『咳は止まったから、治療はもう必要ない』と自己判断で治療を中止してしまう患者さんがいらっしゃいますが、肺機能を評価しながら慎重に薬を減量していくことが大切です。
喘息に関与している原因により、治療法や治療期間は、患者さん毎に異なってきます。
長く喘息と気づかれなかった患者さんほど、治療には時間がかかる場合が多いです。

では、喘息の治療とは具体的にどのようにしていくのでしょうか?

喘息治療の実際

1.原因の除去

  • 禁煙
  • ペットの飼育環境を変える(一緒に寝ない、外に出すなど様々)
職業性喘息の場合、職場環境の改善などが必要です。
こまめな掃除や換気、絨毯や布製のソファー・ぬいぐるみを除去するなどが必要になる場合もあります。また、家に飾った花が原因で咳が止まらない、などの事もあります。

なかなかよくならない患者さんには、自宅の写真を撮ってきて見せていただいたり、ご自宅を訪問し、具体的な環境改善を指導する場合もあります。
また、環境要素がないか、一時的に入院して初めて改善することもあります。

2.吸入ステロイド

喘息の治療ではなんといっても1とならび、柱となる治療です。
どうしても即効性がないため、患者さんにはあまり効果がないと誤解されたり、のどの違和感や声がれの副作用が前面に出てしまい、途中で吸入するのをやめてしまう患者さんが多いことも事実です。
少なくとも1ヶ月はだまされたと思って吸入してください、と患者さんにはご説明し根気強く使用していただくよう説得します。
1ヶ月後、症状改善の有無(ただ、咳があるかないかではなく、咳が何%ぐらい減ったか?)を確認し、肺機能検査などで客観的に評価をします。
また、中止後症状の再燃がないか、注意深く経過観察することも大切です。

3.β(ベータ)刺激薬 吸入・貼付・内服

即効性はありますが、このため頓用薬として、この薬剤だけを使用している患者さんが多いことも問題です。
β刺激薬は、たとえてみますと消火器です。
火事になったときに使うもので普段の治療で使う薬ではありません。
(野球にたとえますと、あくまでも代打・・・)
喘息の治療は、発作を起こさないという予防が何より大切です。
最近はステロイドに合剤として入っているのが普通になりましたが、あくまでも代打の認識を忘れてはいけません。

4.抗アレルギー薬・テオフィリン製剤・抗コリン薬など

ステロイド+β刺激薬の組み合わせに、追加で使用する脇役の薬です。
あくまでも脇役ですので、この薬だけでは、靴下だけはいて外出するような感じですので(うちの子がよくしてますが・・・)ご注意ください。

5.その他1

マクロライド系抗菌薬や抗ヒスタミン薬を使用する場合もあり、合併した疾患によってはとても効果があるケースを認めます。

6. その他2

漢方薬も患者さんによっては効果が高い方もいます。
いずれにしましても副作用に十分配慮しながら治療を行い、経過を観察していくことが大切です。